天下りの闘病生活 霞ヶ関からのお引越し

霞が関入省、ところが・・・。

お役所仕事は退屈なものだ。
世間では、「税金で食べている者たち」なんてささやかれ、これといった努力もしない人々として冷ややかな目で見られているように感じる。それでも多くの若者は、様々な公務員試験を目指して勉強をする。学生時代は、役人に対してそんな冷ややかな目で見つつも、公務員対策講座なんてちゃっかり受けていた。好印象はなくても、安定的な地位と収入を確保したいというのは、誰もが持つ心理的欲求なのかもしれない。

大学3年生の時には、運にも恵まれて国家一種を合格することが出来た。これといった努力はしていなかったが、対策講座のセミナーが良かった。講師の先生が「覚えることは徹底的に減らせ」という指導方針で、勉強嫌いな人でも頭の中に入ってくる内容だった。その後、スムーズに霞が関のとある官公庁に採用が決まった。 同期入社の出身校は日本で五本の指に入る大学であった。そんなこともあり最初の頃、彼らと話すことが恐れ多く感じてしまっていた。それでも一緒に仕事をして話しているうちに、同じ人間なのだとわかるようになった。完全縦社会のお役所仕事だったが、配属先に恵まれたのか、飲み会などちょっとしたイベント豊富だった。仕事も慣れてくれば、出張や研修など幅を利かせたこともできるようになった。自分自身の成長が楽しかった。一番大変なのは、国会の会期中だ。連日答弁の資料作りに追われ、終電に終わらずタクシーで帰るようなことが続いた。

半年近くが過ぎてから、家の近場を飲み歩きたいと思うようになった。これまで、家で飲むことが多かったが、気分転換をしたいと思うようになった。何件か行っているうちに、気付けばお気に入りの焼鳥屋を見つけていた。最近では、仕事が終わってから週に3回くらい焼鳥屋へ飲みに行く。マスターからは、すっかりおなじみの常連客となっていた。いつもいくからこそ、焼き鳥に合う焼酎をボトルで入れている。
というより、マスターが気を利かせて専用ボトルを作ってくれたのだった。その焼酎は、南九州の酒蔵から仕入れた一升瓶の上物だ。この一升瓶は月に1本のペースで飲んでいく。だから、年間で12種類の焼酎をその店では楽しんでいる。芋、麦、米などなんでもある。そして、時期と焼酎に合った焼き鳥が出てくる。全く気の利いたマスターだ。カウンターで13席程度のその店には、20時過ぎくらいにいつも行く。 今夜も仕事が終わってから、その焼鳥屋に行った。いつもの席にいつもの感じで焼酎と焼き鳥が出てきた。

マスターと以心伝心のように、店に着くころには焼き鳥を焼いているのだ。そして、焼き立ての焼鳥が出てきた。焼酎を飲みながら大好きな焼き鳥を食べてみると、何かいつもと違う。

おいしく感じないのだ。
おいしく感じないというより、味がわからない。
そして、妙な胸やけがしてきた。いつもの調子と違うことに気づいたマスターは、「本当に疲れているときには、早く休みなよ」といってくれた。その日は、マスターには申し訳なかったが、ほとんど残して店を後にした。

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